2019年03月30日

087:ゆく河の流れは絶えずして

 前回(平成30年5月)のトピックから大分間が空きました。昨年は本当にいろいろなことが起こりめまぐるしく環境が変わったため、落ちついて記載する気にもなれず、時が経過するままになっていました。前回のトピックの内容は、10年近く働いていた仕事場が変わることになり、ギリギリになってようやくつながりを持った新しい職場で仕事を始めているという内容でした。色々なことで縁を感じるような所だったので、ここでしばらく勤めることになると思っていました。しかし、そこは約半年間の縁でした。今思えば・・・。

 そこの病院での私の仕事は総合診療科(内科外来)で、病棟業務も当直もなく、午前中は主に初診患者を診療することでした。午後はウォークインの患者が来院した場合に呼び出されて、診療するという内容でした。たまに前の担当医の患者さんの再診フォローもありましたが、基本は私の予約枠はなかったので、全体の割合としはほぼ初診患者に占められていました。2次〜3次救急の患者さんを担当する救急専門医は別におりましたので、救急車を使うほどではない(1次〜2次救急くらい)の初診の患者さんを担当する役割でした。もちろん、病院ですので、種々の科(消化器内科、糖尿病、呼吸器、循環器、外科、整形外科、小児科、放射線科などなど・・・)の専門の先生もいました。

 総合診療科には私の他に以前よりここで働いている部長にあたる先生(仮にA先生)と私とほぼ同時期に入職した先生(仮にB先生)の3名が所属していました。B先生は変わった経歴の先生で、以前は全く畑違いの仕事(ボーリング作業)で外国(確かノルウェーだったか?)で仕事をしていたらしいのですが、途中でやめて医学部に再入学して医者になり消化器内科として他院で働いていたようです。そこの病院が家に近いため、以前よりそこに入職したかったようで、転院して、私と同時期に入職することになりました。話しやすい先生でしたし、私よりもキャリアが上だったので、何かと教えていただき助かりました。

 問題はA先生でした。この先生は私よりはるかに上のキャリアで実力も知識もかなり上であることは確かでした。ただ、コミュニケーションという点ではどうやらゼロに近いタイプの人でした。普段医局では隣の席なのですが、ほとんどいることはなく、多分病棟か外来の診察室にいたのだと思います。他の先生との交流もあまりないような印象でした。

 私がそこで働き始めて数ヶ月したとき、勉強会と称してA先生に呼び出され、私の診療内容に関する指導が始まりました。話している内容は多くが「なるほど」と思える内容で私としても勉強になったことは確かでした。また、日々勉強もされているようで、おそらくたくさんの難病の患者さんを救ってきていたのでしょう。そういう実績からの話しの内容だとは感じられました。しかし、いくつかの点は「ちょっと違うんじゃないかなぁ〜」と思える内容もありました。しかし、私としては新参者ですし、上司にあたる先生でしたので、特に口も挟まずに黙って聞いていました。ところが後でわかったことですが、A先生は気むずかしい先生でいろいろな人にクレームを出していたようでした。

 以前この病院の消化器内科の先生ともなにやらもめ事があったらしく、ちょっとした断絶状態になっていることも後で知りました。また医局内で事務員さんが、A先生からクレームをつけられているのを直接耳にしました。話の内容を聞くと事務員さんのちょっとした落ち度があったようなのですが、「つまるところ、その原因は、あなたのコミュニケーションのなさじゃない?」といいたくなるようなものだったのです。結局、事務員さんが謝って、納まったようですが、一方的に攻めるような話し方で聞いていて周りが不快になるような感じでした。いつも事務関係でお世話になっているのだから、もっと軟らかい話し方があるだろうにと思い、事務員さんが気の毒だと感じたのは私だけではなかったでしょう。
 また、A先生が担当している患者さんの一人がたまたま私の外来に来たことがありました。種々の症状の訴えを聞き、ある程度の説明をしてその場でできる対処をした後で、「また主治医の先生とも相談してください」と言ったところ、「あの先生はこちらの言うことをまともに聞いてくれない。何かを言っても「ああ、それは大丈夫!」という一言でお終いになり、それ以上とりつく島もないので、受診する気もうせていて、主治医をかえてもらうか通院する病院自体を変えたい」というぐちをこぼされました。私としては予約枠がないので、どうすることも出来ず、「事務の人にも相談してみてください」と言うしかありませんでした。これも後で知ったことですが、私の知り合いの先生も以前なにやら分けの分からないクレームをつけられたことがあったようで、やはり同じような患者さんを自分も知っているという話しをしていました。もちろん、患者さんすべてが同じように感じているわけでもないでしょうし、A先生は同じ総合診療科の上の先生ですので、私としては何らかの形で常に関わりを持たなければならない立場でしたので、芳しくないこのような事実に遭遇するのは何とも複雑でした。

 病院自体は5年前に新築したばかりで、きれいであり、アメニティも申し分なく、また事務員さんも本当に良い方ばかりで、大変にお世話になりました。A先生だけは「む〜、ちょっとなぁ〜」という感じはありましたが、私の隣にいた糖尿病専門の女医さんも何かと話かけていただけたし、斜めうしろにいた消化器内科の先生もきさくな先生で消化器関係の外来の患者さんをこころよく引き受けて下さり、助かりました。放射線の先生も面白い先生で、毎週月曜日の朝に画像の勉強会を開いて下さり、とても勉強にもなりました。そんなこんなでいい雰囲気でいられそうだったのです。しかし、本当に問題だったのは、それよりも何よりも仕事内容でした。仕事内容が私に合っているものであれば、今でも継続していたと思います。

 総合診療科は一般内科なので、来院する内科関係の患者さんをまず診ることになり、専門医の判断が必要になれば、適切な専門医へ振り分けるという内容でした。ここはこの地域の基幹病院とも言える場所なので、来院した患者さんを必ず白黒をつけなければなりません。中にはどこか他院通院中で主治医がいるにも関わらず勝手に来院してしまう人もいます。もちろん、クリニックでは対処ができずに紹介状を持って来院する人もいます。そのような患者を相手に問診・診察して種々の検査をして入院が必要な人は入院させ、取りあえず臨時の処置や処方で帰宅できそうな人は帰宅させて経過観察とする。またここでも対処できないような患者はもう一つ上の病院へ紹介して送るなどなど・・・。この繰り返しです。
 白黒がすぐにつくような患者もいれば、種々検査などしてもよくわからない場合も多々ありました。

 私は病棟は担当してないので、入院させる場合はA先生かB先生にお願いすることになります。これも気を遣う作業でした。入院が必要とはっきりしている人であれば、いいのですが、中途半端な人の場合が困ります。実は重いのに帰宅させてしまうとあとで悪化して再来院した場合には患者さんにも担当の先生にも迷惑をかけます。かといって、帰宅でもいけそうな人を念のために入院させれば、病棟担当の先生の負担になります。このように気をもみながら毎日の診療を担当していました。

 この病院に入職した当初は春頃だったので、患者さんも比較的落ち着いていたせいかクリニックの外来とさほど変わらない内容でしたので、午前外来も大体は昼過ぎ頃に終了して特に大きな問題もなく経過していました。予約枠がない分、むしろ少し物足りないような感じもありました。ある時、病院長先生にその旨をお話したこともあったのですが、「予約は持たずに分担しておいた方がよいでしょう」というような意味ありげな返事が返ってくるだけでしたので、「そんなもんなのかなぁ」と思いつつ、しばらく様子を見ることにしました。しかし、数ヶ月を待たずしてその言葉の意味を理解するときが来ました。

 ちょうど春も過ぎて暑い夏がやってきました。熱中症で体調を壊す人がかなりやってくるようになりました。はじめはそれなりに対応していけてたのですが、だんだんそうも行かなくなってきました。

 総合診療科は私とA先生、B先生の3人でしたし、私は病棟担当ではなかったので、A先生とB先生は週1回くらいの外来枠で予約の患者さんと初診患者を数人診る程度でしたが、私は月火水金のほぼ全ての内科外来担当でしたので、結構な割合の初診患者がまわされてくるような状況でした。一人の能力は限られているので、当然対処しきれなくなる状況も目立ってきました。だんだん午前外来の終了が午後の2時か3時までかかるというのが当たり前になってきて、ひどいときには午前外来なのに午後4時半頃にようやく終了するという事もありました。その後で午後のウォークインの患者を診て、採血や画像検査などの指示を出してそのデータが揃うまでに(30分〜1時間)休憩するということもありました。
 当然、患者さんからのクレームが出てきてます。落ちついている予約患者ならともかく、初診患者で午前中に受付したのにも関わらず、3〜4時間待たされて、午後になってようやく診察室に入るという状況です。怒るのも当然でしょうし、中には非常に具合が悪い人もいるわけで、このような体制では対処が遅くなって取り返しが着かなくなることもあり得ます。

 私としてもめまぐるしく休み無く働いているのですが、やはり一人では限界があり、改善のしようがありません。改善するためにはA先生やB先生も同じような振り分けで初診外来を担当する以外に方法がないとしか思えませんでした。しかし、他の2人は病棟も担当しているため、それは不公平になります。病棟を持っていない私が対処するしかないという状況です。しかし、このような体制では患者さんに迷惑をかけることが明らかですし、ひいては基幹病院としての機能が働いていないということにつながります。どう考えても私のような中途半端な立場の者が、ここに関わっているべきではないという思いが強くなってきました。3人が平等に初診外来を担当するなら私も病棟に関わらなければ不公平だし、かといって今の私の実力で病棟に関わったら、それこそよけいに迷惑になることは目に見えていました。ならば、私のいる場所にあと1〜2人の病棟も担当できる先生を呼んで数を増やして対応するべきではないだろうかという方向性が私なりに考えられたことでした。しかし、自分がこのままここに居続けたら、それなりにコストもかかるので、新しい先生を入職させることも難しいだろうと思われました。

 自分は以前、救急指定病院の外来を週1回担当していたので、そこは自分には合わない場所だと思いながらも10年間努めて、結局時期がきて離れたという経緯があるので、クリニックの外来がちょうどよかったのです。だから久しぶりに関わった病院の勤務というこの経験はいろいろな理由で自分には合わない勤務場所であることを再認識しました。

 これもあとで聞いてわかったことですが、以前この私のポストにいた先生はかなり高齢の先生だったようで、少しゆっくりめに働いていたようですので、午後6時か7時ころになることもしばしばあったようで、「他の医者を呼べ〜」と怒ったこともあったようです。最終的に件のA先生とも何かやりあった後で、急に病院をやめてしまったそうです。そこで急遽担当する医者が必要になり、そこに何も知らない私が飛び込んだような次第でした(飛んで火に入る・・・)。

 結局、ストレスもピークに達していて、自分の場所ではないということもはっきり見えてきたため、9月の半ば頃に事務長に上記のこと(仕事内容と病院の体制)を話して、自分はここを離れた方がよいことをお話しました。事務長としては「そのようなストレスがかかっているのは良くないし、各部署を少し調べてからまたお話します」との返事でした。その後、2週間ほどして事務長からまた話しがあり、「いろいろ調べてわかりました」「実際問題としては先生にはいつ頃まで働いてもらえるのでしょうか?」との問いだったので、「目安としては来年の3月の終わり頃が年度末でよいのではないかと思ってます。急にやめてもかえって初診外来が忙しくなり他の先生にも迷惑になるでしょうから」と答えましたが、心の中では「もう数週間も続きそうもないかなぁ〜」というのが本音でしたので、「まだ新しい仕事場はこれから探すので、何とも言えませんが、もし早めにみつかったら早い退職になるかもしれません」と答えました。そうしたら、「実はグループの病院や医院にも当たってみて先生にちょうどよい勤務場所も探してみたのですが、みつかりませんでした。また他の施設から10月よりこちらに来てもらえそうな先生が見つかりました。まだ先生の方はおそらく次の仕事もないと思うので、恐縮ではありますが、先生には実際の診療は9月一杯で終了とし、閉めにあたる10月の半ばまでで文面上の退職ということではいかかでしょか」という提案でした。次の仕事が決まってない不安は多少ありましたが、今までの流れで私としては自分の道はなんらかの形で現れてくるだろうと思っていましたし、何よりもストレスもピークで、向こうからの提案だったので、その提案に応じました。

 という長たらしい経緯で、そこの職場は半年で離れることになりました。また仕事を探すことになったのですが、幸い10月の半ば頃から新しい職場がみつかり、もうすでに半年が経過しています。今の職場は家からかなり遠い場所で東大阪にあるクリニックです。やはりグループの中の一つの診療所です。ここに常勤として勤めることになり、今に至っています。この医院は建物はそれなりに古く、場所も辺鄙なところにあるのですが、仕事内容はクリニックの内科外来で本当に私にぴったり合っている所です。上記の経緯があったためになおさらそのように感じられるのかもしれませんが・・・。

 病院の再勤務の経験を通して、以前の10年間勤務していたクリニックではほとんど気づかなかったようなことや学ばされることを本当にたくさんいただきました。私としてはとても貴重なそして必要な経験でした。

 今までも何度か言ってきましたが、変化は常にあり、変化する度にいろいろな経験をさせてもらい、その度毎によい環境になっている事を見いだしている今日この頃です。

『人生万事塞翁が馬』といいます。今後もまた様々な変化が訪れるでしょう。その流れのままに生きていくのみです。新しい年度がやってきて、年号も変わります。多くの人が新しい変化に身を任せていく季節です。まぁ焦らずゆるゆるとまいりましょうか。

遠田
posted by ..... at 21:31| Topics