2015年09月01日

082:飛蚊症(ひぶんしょう)にご注意を!

 昨年から今年に入って現在に至までいろいろと厄介なことが立て続けに起こりました。中でも初めての大きな経験として左眼の網膜剥離による入院がありました。急なことだったので、ご迷惑をおかけした患者様もおられることでしょう。
 
 7月のとある水曜日の夜のことでした。いつもの趣味の電子工作に没頭していて、一息ついたので、1階に降りてお茶の用意をし、2階に戻り椅子に腰掛けた瞬間でした。何やら、目の前に黒い幾筋もの線状のものが浮かび上がりました。痛みも何もなく、まさにふっと湧いてでてきたようでした。思い当たることがあったので、左右の眼を交互に確認し、左眼の網膜に何かが起こったなとわかりました。というのも半年以上前から左眼にいわゆる飛蚊症という現象があったのです。眼球をさっと動かしたときに今までになかった虫のようなものが脇を飛ぶように見えていました。時期もちょうど蚊などがでる時期で、非常勤務のクリニックの内科外来の最中にパソコンを操作しているとき、はじめは「あっ、また蚊が入ってしまった(たまに風通しをよくするために近くの窓を開けることがあるので、たまに蚊が入ってしまうことがあります)」と思い、手で退治しようとしましたが、すばやい動きで逃げられていました。しかし、眼球をある動きをするたびに同じ方向に現れるので、飛蚊症と気づきました。まさに「蚊」という字が入っていて、言い得て妙です。
 飛蚊症は網膜病変の前段階で現れることがあるという知識はありましたが、まぁ小さいものでしたし、生理的現象もありますので、気にしないようにしていました。その後もそれ以上の目立った変化もなかったので、そのままほったらかしにしておりました。そうしたら、半年以上も経ってから、上記の事件がやってきてしまったのです。
そのことが起こった当日は、黒い糸くずが浮かんだもののしばらくすると中心からそれていき、やや眼の中にゴミが増えた感覚はありましたが、ある程度普通に見えていましたので、油断していました。もちろん眼科受診をするつもりでしたので、以前1日の使い捨てタイプのコンタクトレンズを処方してもらった眼科の受診カードをだして確認すると翌日の木曜日は手術日となっていて、普通の受診はできないようでしたし、金曜日は私も1日の仕事がありましたので、その次の土曜日がたまたま休みでしたので、午前中に受診しようと決めて、普通に過ごしておりました。木•金とも特に視界に変化はなく、土曜日に早めに眼科を受診しました。視力や眼圧測定というお決まりの検査が終わり、いよいよ先生に眼底を診てもらっていて眼球を左右に動かしていると「あっ、だめだこりゃ!」という一声。 説明を聞くと眼底の端の一部に裂孔が生じていて、その周りが浮腫んできている、つまり剥離が起こってきているとのことでした。もう少し早めに受診して小さい裂孔ならば、このクリニックでもレーザー治療が可能だったが、裂孔が大きくその先生の経験では手術になる可能性が大であり、今のところ見えているようだが、剥離が中心に進んでくると見えなくなるとのこと。もう2〜3日遅ければそうなっていたかもしれない、いずれにしろ、大きな病院を紹介しますと言われ、自分の家から近い近畿大学病院に紹介状を書いてもらいました。土曜日なので、近大も外来は午前中まででしたので、妻に電話し駅に迎えに来てもらい病院へ直行しました。無事に外来受診に間に合い、その日の担当の先生に眼底を診てもらったところ、「ん〜五分五分ですねぇ」と迷っている様子。別の先生にも診てもらいますと言って、もう一人の先生にも確認してもらい、何やら二人で相談していて、結果的には取りあえずこのままほっとくわけにはいかないので、裂孔の周りに大きめにレーザー治療をしてみますとのこと。剥離による浮腫のためレーザーでくっつくかどうか不明とのことでした。はじめに担当してくれた先生から治療を受けました。これは光凝固というもので、パッ、パッとフラッシュのような光が閃き、網膜を焼いていく治療です。連続して照射されると少しチクチクした痛みを感じますが、だいたいはまぶしいくらいで特にどうということもない治療でした。しかし、何せ同じ姿勢で眼を開けられたまま、ある方向を見続けながらの治療なので、やる方も大変でしょうが、やられる方も疲れてきて、また眠くなってきて、しばしば眼の力が抜けてしまい、そのつど頑張るように促されて継続し、ようやく終わったときは1時間近くかかっていたようで、「500発ほど打ちました。取りあえずくっついているようですが、この土日はできるだけ安静にして過ごしてもらい、また月曜日に確認させていただきます」とのことで、その日は終了。せっかくの土日でしたが、とにかく安静に過ごし、月曜日に再受診することになりました。

 月曜日の受診時の眼底検査後、先生がおっしゃるには「一応、くっついていますが、浮腫が残っているので、やはり五分五分です。今日は外来でベテランの上の先生が出ているので、そちらで診てもらいます」ということになり、外来の合間に確認してもらいました。慣れた手つきでほんの少し確認していましたが、「あっ、手術だ!」と鶴の一声。ベテランだけに決定も早く、たまたまその先生の午後の空いている時間があり、「ぼくが後ほど手術します。1時間半くらいで終わります」と言われ、即入となりました。

 結局眼科医の説明や後で調べてわかったことは、もともと極度の近視のため、網膜が薄く、また加齢により網膜の前のゼリー状の硝子体が変性し、それに引っ張られて網膜に裂孔が起こったとのことでした。網膜が薄くて一部に裂孔が生じるのは20歳代の若い人に多く、硝子体の変化で生じる裂孔は50歳以降が多いようです。

 手術はその変性した硝子体を取り除き、そこにガスを注入して網膜を押さえつけて安定させるというものです。ガスが抜けるのが2週間くらいかかるので、それまでは入院となります。ガスが抜けると自然に水がたまっていくようです。またこの手術をすると遅かれ早かれ、レンズが濁ってくることが多く、いわゆる白内障の状態になり、また再入院してレンズ交換になるので、この入院の時に一緒に手術してしまった方が何度も入院するよりよいとのことで、白内障の眼内レンズの手術も同時に行うことになりました。

 これらの一連の手術も実際に1時間半くらいで修了し、手術中の痛みはそれほどなく、むしろ手術前の眼のあたりに麻酔を注射されるときが一番痛かった感じです。術後の痛みもそれほど感じませんでしたが、何よりもつらかったのは注入したガスのため、入院中はうつ伏せ状態で寝なければならないことでした。上向きではガスが抜けてしまうためです。うつ伏せ用の呼吸ができるような専用の枕も用意されていましたが、2週間もの間うつ伏せ状態は腰は痛くなるし、寝返りのうてない辛いさは経験しないとわからないでしょう。午前中も起きていてもいいが、なるべく頭を下向きにしておくようにとの指示がありましたので、頭の重さが直接首筋から肩にかかり、もともと肩こりがあるので、さらにそれがひどくなり、湿布で過ごす日々でした。
 また、6人部屋に入院したため、いろいろな人たちがいて、普段はわからない人間の性状も少しは観察できました。一番困ったのは入院して1週間くらいして隣に白内障の手術で入ってきた方で、昼間は割と静かに過ごしているようでしたが、就寝時間を過ぎても何やらゴソゴソとやっていて(あとで何となくわかったこは、本や新聞やテレビなどで得た気になる情報を忘れないようにメモしているようでした)、ようやく寝たかと思ったら、しばらくするとものすごいイビキをかき始めるのでした。これはもう半端じゃないもので、おそらく部屋中の誰もが起こされ、迷惑になっていたと思われます。ひどいイビキがしばらく続いていて、その後徐々に静かになり、途中止まったようになったあとで、もの凄い音でむさぼるように息をするようなイビキ(睡眠時無呼吸だったのだろうか?)でそれはもうエライ経験でした。妻に耳栓を持ってきてもらうようにメールをしたところ、その人が無事退院した日の夕方に耳栓が届きました(白内障の手術は2泊くらいで済みます)。
 
 手術後、ようやく1ヶ月くらいが過ぎました。左眼は今のところ問題なく経過しておりますが、今の眼鏡との度があってないため、やや違和感があり、以前よりも何をしても疲れやすい状態です。やがて、眼鏡を新しくしないといけませんが、少し日を開けた方がいいようなので、我慢して過ごしています。

 私としてはとにかく初めての入院でしたので、遅ればせながら医者になって初めて患者さんの立場がわかる貴重な経験でした。

 最後に自分で深く身にしみて感じたことは、眼というのは何と大切なもので、普通に見えていることのなんと有り難いことかということ。また、今までにないちょっとした飛蚊症でも何か変わったことがあったら、早めに眼科受診することです。小さいうちなら、簡単な治療でなんとかなりますが、ほおっておくとそりゃ〜大変なことになります。私が保証します。

(遠田弘一)
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